コロナウイルスについて
ヒトに感染するコロナウイルス
ヒトに蔓延している風邪のウイルス4種類と、動物から感染する重症肺炎ウイルス2種類が知られています。これらについては、それぞれの症状や感染経路などの特徴を以下の表に示しました。

1.風邪のコロナウイルス
ヒトに日常的に感染する4種類のコロナウイルス(Human Coronavirus:HCoV)は、HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1です。風邪の10~15%(流行期35%)はこれら4種のコロナウイルスを原因とします。冬季に流行のピークが見られ、ほとんどの子供は6歳までに感染を経験します。多くの感染者は軽症ですが、高熱を引き起こすこともあります。
2.重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)
SARS-CoVは、コウモリのコロナウイルスがヒトに感染して重症肺炎を引き起こすようになったと考えられています。2002年に中国広東省で発生し、2002年11月から2003年7月の間に30を超える国や地域に拡大しました。2003年12月時点のWHOの報告によると疑い例を含むSARS患者は8,069人、うち775人が重症の肺炎で死亡した(致命率9.6%)。当初、この病気の感染源としてハクビシンが疑われていたが、今ではキクガシラコウモリが自然宿主であると考えられている。雲南省での調査では、SARS-CoVとよく似たウイルスが、今でもキクガシラコウモリに感染していることが確認されています。ヒトからヒトへの伝播は市中において咳や飛沫を介して起こり、感染者の中には一人から十数人に感染を広げる「スーパースプレッダー」が見られました。また、医療従事者への感染も頻繁に見られた。死亡した人の多くは高齢者や、心臓病、糖尿病等の基礎疾患を前もって患っていた人でした。子どもには殆ど感染せず、感染した例では軽症の呼吸器症状を示すのみでした。
3.中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)
MERS-CoVは、ヒトコブラクダに風邪症状を引き起こすウイルスですが、種の壁を超えてヒトに感染すると重症肺炎を引き起こすと考えられています。最初のMERS-CoVの感染による患者は、2012年にサウジアラビアで発見されました。これまでに27カ国で2,494人の感染者がWHOへ報告され(2019年11月30日時点)、そのうち858人が死亡しました(致命率34.4%)。大規模な疫学調査により、一般のサウジアラビア人の0.15%がMERSに対する抗体を保有していることが明らかになったことから、検査の俎上に載らない何万人もの感染者が存在していることが推察されます。その大多数はウイルスに感染しても軽い呼吸器症状あるいは不顕性感染で済んでおり、高齢者や基礎疾患をもつ人に感染した場合にのみ重症化すると考えられています。重症化した症例の多くが基礎疾患(糖尿病、慢性の心、肺、腎疾患など)を前もって患っていたことが解っています。15歳以下の感染者は全体の2%程度ですが、その多くは不顕性感染か軽症です。ヒトからヒトへの伝播も限定的ですが、病院内や家庭内において重症者からの飛沫を介して起こります。年に数回程度、病院内でスーパースプレッダーを介した感染拡大が起こっていますが、市中でヒトからヒトへの持続的な感染拡大が起こったことは一度もありません。2015年に韓国の病院で起こった感染拡大では、中東帰りの1人の感染者から186人へ伝播しました。
動物コロナウイルス
コロナウイルスは家畜や野生動物などの、我々の周りに棲息するあらゆる動物に感染し、様々な疾患を引き起こすことも知られています。イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ニワトリ、ウマ、アルパカ、ラクダなどの家畜に加え、シロイルカ、キリン、フェレット、スンクス、コウモリ、スズメからも、それぞれの動物に固有のコロナウイルスが検出されています。多くの場合、宿主動物では軽症の呼吸器症状や下痢を引き起こすだけですが、致死的な症状を引き起こすコロナウイルスも知られています。家畜では豚流行性下痢ウイルス(PEDV)、豚伝染性胃腸炎ウイルス(TGEV)、鶏伝染性気管支炎ウイルス(IBV)、実験動物ではマウス肝炎ウイルス(MHV)、ペットでは猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)が致死的です。コロナウイルスの種特異性は高く、種の壁を越えて他の動物に感染することは殆どありません。
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)とは
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)とは
「新型コロナウイルス」は上記同様コロナウイルスのひとつです。
新型コロナウイルス感染症は、2019年12月、中華人民共和国湖北省武漢市において確認されました。世界保健機関(WHO)は、2020年1月30日、新型コロナウイルス感染症について、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言しました。その後、世界的な感染拡大の状況、重症度等から3月11日新型コロナウイルス感染症をパンデミック(世界的な大流行)とみなせると表明しました。
新型コロナウイルス感染症は、これまで限られた知見しか得られていませんが、飛沫感染・接触感染を主とする感染経路であり、一部の感染者及び感染者の行動や環境によっては強い感染力を持つ可能性があると考えられています。臨床的な特徴としては、潜伏期間(2月23日付WHO)は1〜14日(5日間が最も多い)であり、その後、発熱や呼吸器症状、全身倦怠感等の感冒様症状が1週間前後持続することが多いようです。一部のものは、呼吸困難等の症状を呈し、胸部X線写真、胸部CTなどで肺炎像が明らかになります。また、発病者の多くが軽症であると考えられていますが、高齢者や基礎疾患等を有する者においては重篤になる可能性があるため厳重な注意が必要です。
現在、新型コロナウイルスに感染した場合の治療薬はありません。そのため治療薬の開発は最重要項目のひとつとなっています。これまでに存在している既存の薬を新型コロナウイルスの治療に応用できる可能性があり、複数の薬についてその治療効果や安全性を検証するための臨床研究が行われています。そのひとつとして「アビガン(一般名:ファビピラビル)」があります。
アビガンはもともと、一般的なタミフル等の薬が無効であるような新型インフルエンザの流行に備えて国が備蓄するために承認された薬であり、一般には流通していません。ウイルスの増殖を抑える作用があるといわれており、新型コロナウイルスにも効果がある可能性があります。
しかしアビガンには副作用として催奇形性(女性・男性ともに、内服した際に胎児に悪影響を及ぼす可能性がある)等が明らかになっており、現在、多施設共同で臨床研究や治験を行い有効性や安全性の検証を進めています。これは妊婦さんのおなかの中の胎児に悪影響がある一方、服用後に性行為をして妊娠した場合にも悪影響がある可能性を含んでいます。