O157について
腸管出血性大腸菌O157とは
大腸菌のほとんどは無害ですが、なかには下痢を起こすものがあり「病原性大腸菌」と呼ばれています。病原性大腸菌には4種あり、うち腸管出血性大腸菌(ベロ毒素産生性大腸菌)はベロ毒素というものを出して、溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症(けいれんや意識障害)を起こします。O157は、この腸管出血性大腸菌の代表的な細菌です。
O157は家畜などの糞便中にときどき見られ、糞便や糞便で汚染された水、食物を介して、人の口に入りO157感染症を起こします。
O157の感染力は非常に強く、100個程度のO157が身体の中に入っただけでも、病気を起こしてしまいます(多くの食中毒では、100万個以上の菌が身体の中に入らないと食中毒は起こりません)。
死亡者を出すような毒性の強い大腸菌は、正確には「O157:H7」と分類されています。大腸菌は菌体の周囲に鞭毛(べんもう)があり、菌体と鞭毛の抗原の種類によって分類されています。菌体抗原を“O”で表し、鞭毛抗原をHで表します。「O157:H7」は、157番目のO抗原と、H7というH抗原を持っているという意味です。
O157の生存条件・増殖条件
水の中、土の中で数週間~数ヵ月間生きています。
低温に強く、冷凍庫内でも生きています。
酸性に強く、口から入ったO157の大部分は胃の酸にも負けずに生き残ります。
熱には弱く、75℃1分間の加熱で死んでしまいます。
増殖は、温かく栄養分と水分のあるところで盛んになります。清潔、乾燥、低温を保つことで増殖を抑えることができます。身体の中では大腸で増殖します。
O157の感染経路
O157は家畜(牛、羊、豚など)の大腸をすみかとしています。汚染は家畜糞便から水や食物を介して感染したり、感染した人から人へ感染します。
O157感染症が起こりやすい時期
食中毒は、ふつう気温が高くなる初夏から初秋にかけて発生しやすくなります。
この時期に食中毒が多いのは、気温が食中毒菌の増殖に適しているからです。しかし、O157の感染力はふつうの食中毒菌より強く、菌がそれほど多くなくても(100個程度で)病気を起こします。そのため、O157感染症は、他の食中毒に比べて気温の低い時期にも発生しています。
O157感染症の症状
◆下痢、腹痛
感染者の約半数は、4~8日の潜伏期間ののちに、激しい腹痛を伴った水様便(水っぽい下痢)が頻回に起こり、まもなく血便(血液の混じった下痢)が出ます。
成人では感染しても、無症状だったり、軽い下痢で終わることが少なくありません。しかし、その場合でも便には菌が混じって排泄されていますので、家族に感染を広げないよう十分な注意が必要です。
◆発熱
発熱があっても一過性で、高熱になることはあまりありません。
◆溶血性尿毒症症候群(HUS)
★症状
蒼白(顔などの血色が悪くなること)、倦怠(全身のだるさ)、乏尿(尿の量が少ない)、浮腫(むくみ)が主な症状です。中枢神経症状〔傾眠(眠くなりやすい)、幻覚、けいれん〕なども起こります。
HUSは下痢、腹痛などが起こってから、数日~2週間後に起こります。
★HUSの3つの徴候
検査で以下の3つが確認されると、HUSの可能性が高いと考えられます。
赤血球が壊れ貧血になります。
血液を固める働きをする血小板数が少なくなり、出血しやすくなります。
腎臓の働きが低下します。
◆脳症
頭痛、傾眠、不穏、多弁(口数が多くなること)、幻覚などが予兆として起こり、数時間~12時間後にけいれん、昏睡が始まります。
O157感染症の経過
O157感染症が怖いのは、O157が出す“ベロ毒素”が溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症を起こすからです。これらは治療が難しい非常に危険な状態です。しかし、同じようにO157に感染しても、知らないうち に治ってしまう人もいます。成人のほとんどは、特別な治療を行わなくても、5~10日間で症状はなくなります。
症状がなくなったあとも、O157は1~2週間腸の中に残り、便の中にも出てきますので(排菌)、消毒などの予防は続けて行う必要があります。
病原性大腸菌の分類
病原性大腸菌(下痢を起こす大腸菌)は、人や家畜の大腸に常在菌(常にその場所に住んでいる菌)として住んでいる大腸菌と同じ種類に属します。病原性大腸菌は、病気の起こし方によって、以下の4つに分類されています。
腸管病原性大腸菌(病原血清型大腸菌)
腸管侵入性大腸菌(組織侵入型大腸菌)
腸管毒素原性大腸菌(毒素原性大腸菌)
腸管出血性大腸菌(ベロ毒素産生性大腸菌)
O157はこの代表選手です。そのほかに、O26、O111、O128、O145などがあります。病原性と毒性が強いため、1996年8月に伝染病予防法に基づく「指定伝染病」に指定されました。