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サルモネラ菌について

サルモネラ菌の分類
 サルモネラ (Salmonella) とは、グラム陰性 通性嫌気性桿菌の腸内細菌科の一属(サルモネラ属)に属する細菌のことをいいます。主にヒトや動物の消化管に生息する腸内細菌の一種であり、その一部はヒトや動物に感染して病原性を示します。ヒトに対して病原性を持つサルモネラ属の細菌は、三類感染症に指定されている腸チフスやパラチフスを起こすものと、感染型食中毒を起こすものとに大別されます。食品衛生の分野では、後者にあたる食中毒の原因となるサルモネラを特にサルモネラ属菌と呼びますが、一般には、これらを指して狭義にサルモネラあるいはサルモネラ菌と呼ぶこともあります。細胞内寄生性細菌であり、チフス菌やパラチフス菌は主にマクロファージに感染して菌血症を、それ以外の食中毒性サルモネラは腸管上皮細胞に感染して胃腸炎を起こす性質を持ち、この細胞内感染がサルモネラの病原性に関与しています。

1.サルモネラ菌の分類

サルモネラ菌の病原性
サルモネラ属の細菌は自然界において、さまざまな動物の消化管内に一種の常在菌として存在しています。しかしヒトにおいては、健康な人の消化管における菌数は極めて少なく、その糞便からは分離されることはほとんどありません。一部のサルモネラはヒトに対する病原性を示し、腸チフスあるいはパラチフスと呼ばれる重篤な感染症を起こすものと、胃腸炎(食中毒)を起こすものの二つに大別されます。いずれも経口的に感染します。前者はそれぞれチフス菌 、パラチフス菌 による疾患であり、これらをチフス性サルモネラ、後者の食中毒性サルモネラを非チフス性サルモネラと呼んで区別することがあります。
 チフス性サルモネラはヒトのみに感染する細菌で、患者の糞便から別のヒトに感染するほか、糞便によって汚染された土壌や水の中に残存しているものが感染源になります。これに対して食中毒性サルモネラ菌はペットや、家畜の腸管に常在菌として存在する人獣共通感染症であり、そこから汚染された食品などが食中毒の原因となります。食品衛生の分野では、この食中毒性サルモネラを問題にして扱うことが多く、以前はサルモネラ菌、サルモネラ菌属という名称で呼んでいましたが、1998年にはサルモネラ属菌という名前に変更され、食品衛生上はこれが正式な名称として扱われています。また、オーラルセックスなどにより感染することもあり、性感染症としてとらえられる場合もあります。

2.サルモネラ菌の病原性

食中毒
サルモネラ食中毒は、典型的な感染型食中毒であり、その主な症状は、腹痛、嘔吐、下痢(ときに粘血便)などの消化器症状、発熱(高熱)などで、抵抗力のない者は菌血症を起こし重症化することがあります。まれに内毒素による敗血症を合併し、死亡することもあります。潜伏期間は平均12時間ほどといわれていますが、3-4日となることもあります。一般的なサルモネラ属菌では、発症するのに10万個以上の菌数が必要といわれていますが、100個以下の菌数でも発症することがあり、食品を介さない人から人への感染も報告されている。
 従前のサルモネラ属菌による食中毒は、ネズミが媒介するものが多く、日本でも戦後暫くまではネズミの糞尿によって汚染された食品を原因とする食中毒事件が頻発していました。衛生状態の向上により過去のものと思われがちですが、最近は感染力が強い鶏肉や鶏卵を介した食中毒が増加し問題になっています。
 日本における食中毒発生件数の1-3割がサルモネラ属菌が原因とされています。特に、鶏卵に由来する菓子による大規模食中毒が目立っています。鶏卵のサルモネラ汚染は、かつてはニワトリの消化管内に寄生したサルモネラが総排泄腔で卵殻の外側を汚染するためと考えられていました。そのため、汚染防止には鶏卵の洗浄が有効とされていました。しかし、今日ではこうした卵殻の外側からの汚染のみではなく、卵黄の部分に細胞内寄生したり、その外側の卵白などが保菌することによって鶏卵を汚染していることも知られるようになりました。しかもこうしてサルモネラに感染した鶏卵からはしばしば発生を全うして健康な雛が孵化することが知られており、保菌鶏が再生産されることになります。こうした親子間の垂直感染を介卵感染と呼び、衛生状態に十分配慮した鶏舎でも汚染鶏卵や汚染鶏肉が生産される原因となっています。
 ペット(イヌやネコ、家畜なども保菌している)から感染する事例も報告されています。アメリカ合衆国では1960-1970年にかけてミシシッピアカミミガメに由来する感染が報告され、死亡例の報告があります。もっともこれは不衛生な環境で飼育されることも問題とされており、むやみに動物に触れない、動物に触れた後には石鹸で手を洗う、台所などで飼育で生じた汚水を処理しないなどの衛生管理により容易に予防する事は可能です。
 治療は対症療法とニューキノロン系抗菌剤による除菌になる。しかし、欧米では耐性菌を誘発する、腸内細菌叢を乱し治癒を遅らせるとして、高齢者や小児を除き抗菌剤は投与すべきでないという考えが主流になっています。止瀉剤は排菌を阻害するので使用しません。

3.食中毒

腸チフス・パラチフス
腸チフスはチフス菌の経口感染により発症します。チフス菌はリンパ節で増殖し、血液に入り菌血症を起こします。臨床所見では、2週間ほどの潜伏期間の後、段階的に体温が上昇し40℃ほどの高熱が続き、バラ疹と呼ばれる淡紅色の発疹や脾腫などが現れます。続いて、胆汁をとおし腸内に大量に排菌され、重症例では腸壁が壊死を起こし腸管出血が起こります。その後、徐々に解熱し回復に至ります。
 パラチフスも腸チフスと同様の症状を呈しますが、腸チフスほど重篤にはなりません。

4.腸チフス・パラチフス

健康保菌者
サルモネラでは、感染しても発症せず排菌だけ続く場合があります。また、発症し症状が治まってから長期にわたり排菌が続く場合があります。これをサルモネラ(腸チフス、パラチフス)の不顕感染者(健康保菌者)といいます。食中毒性サルモネラ菌の不顕感染者は通常治療の対象になりませんが、食品従事者は、食中毒予防の観点から、排菌が止まるまで抗菌剤の服用を指導されます。

5.健康保菌者

菌血症と多臓器感染
乳幼児や高齢者など免疫機能の不十分な宿主の場合、損傷した腸管粘膜からサルモネラ菌が血流中に侵入することがあります。乳幼児で問題となるのは髄膜炎であり、高齢者では大動脈に形成された粥腫への菌の沈着があります。後者は大動脈瘤へと発展する恐れがあります。その他、各種臓器への感染がありますが、いずれも、血液培養で血流感染が立証されない限り心配する必要はありません。

6.菌血症と多臓器感染

感染経路
●食中毒経路
 ◦汚染された食品の生食、あるいは不十分な加熱により食べた場合
 【原因食品】鶏卵、生肉、生レバー、生ケーキなど
 ◦汚染された調理器具や手指を介して、二次的に汚染された食品を食べた場合
 【原因となりやすい調理器具】まな板、包丁、布巾、スポンジなど
●感染症経路
 ◦患者のふん便処理後に、手洗い・手指消毒が不十分なことにより、汚染された手指を介して接触感染する場合
 ◦汚染された箇所(患者が用便後などに触れたドアノブやテーブルなど)に触れることで、手指が汚染されてしまう間接的な接触感染の場合
 ◦ペットに触れ合うことで手指が汚染され、感染する場合(ペットは症状を示していなくても、腸内に保菌していることがあります。)
 【原因動物】ミドリガメ、イグアナなどの爬虫類、イヌ、ネコなど

7.感染経路

予防方法
サルモネラ感染症は、汚染された食品、患者のふん便、ペットを介して感染するので、下記の予防方法をしっかりと行いましょう。
●食中毒対策
 ◦卵は冷蔵保存し、割ったら早めに食べましょう。
 ◦調理器具は良く洗い、熱湯や次亜塩素酸ナトリウム(0.02%)、消毒用エタノールなどで消毒しましょう。
 ◦肉類を生で食べることは控え、よく加熱しましょう(75℃、1分以上)。
 ◦生肉を扱ったあとは、手洗い・手指消毒をしてから他の食品を扱うようにしましょう。
 ◦肉と他の食品は調理器具や容器を分けて処理や保存をしましょう。
●感染症対策
 ◦料理の前や排便の後は、きちんと手洗い・手指消毒をしましょう。特に、こどもの排泄後はしっかり手洗い・手指消毒をするように指導し、赤ちゃんのおむつ交換の後も、必ずしっかりと手洗い・手指消毒をしましょう。
 ◦トイレ内、特に水洗レバーや便座、ドアノブなどは、消毒用エタノールなどでこまめに消毒しましょう。
 ◦ペットに触った後は、手洗い・手指消毒を行いましょう。

8.予防方法

消毒剤に対する抵抗性
サルモネラ菌は、色々な消毒剤に対する抵抗性が弱い細菌です。
消毒用エタノールをはじめ、次亜塩素酸ナトリウム、ポビドンヨード、逆性石けん液(ベンザルコニウム塩化物液)などが有効です。

9.消毒剤に対する抵抗性
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